羊かん事件
日本から帰ってくるときにお土産にと〇やの羊かんをもらった。ひと口サイズ、というのか、小さい羊かんが一つ一つ別々に包まれている。ちょっと過剰包装じゃないかと思うくらい、丁寧に包まれていて、いかにもありがたそうである。
が、一つ一つは小さくて、ちっともありがたくねえぞ。
全部で9箱入っていた。
それで、いちおう、家族は年功序列に関わらず平等に扱うというのが原則なので、一人3箱ずつ分けた。
が、平等の原則にも限界はある。
コーヒーが一箱
緑茶が二箱
黒砂糖が二箱
梅が二箱
粒小豆が二箱
コーヒー羊かんはだんなもわたしも嫌いだ。だから、息子の分とした。このあたりは、息子には秘密の会議で決まった。ちょっと、罪悪感を覚えたが、ま、世の中は基本的には不平等なのさ。
息子は早速、コーヒー羊かんを食べたらしい。
「おとうとおかあはコーヒー羊かん食べた?」
「食べてない」
「なんでぇ。おいしいのに。すっごいおいしい。おいしいと思わない?」
「いまいちやと思うなあ」
「ええ、ほんとうにぃ? すっごいおいしよぉ。僕、コーヒー羊かん好き」
「そやろ。そやから、コーヒー羊かんあげたんや」
罪悪感を正当化しようとする試みである。
真実とは、何を信じたいかによって変わる。
果たして、息子は平等の原則を信じているのか・・・・。母親の善意を信じるか。
一瞬、沈黙が訪れた。
そして、息子が言った。
「おかあ、それは嘘でしょ」
笑ってごまかしました。ははははは。